海ニ ハグクマレテ
今週のお題「海」
父は離島の生まれである。
幼い頃に船着場で兄弟で遊んでいて、3歳ぐらいだった妹を海で亡くしている。
座った拍子にお尻がアスファルトにバウンドして目の前の海に落ちたらしい。
周りに大人がいなくて助けられなかったようだ。
父は長男で、祖父から、なんでお前が見てなかったんだ!とえらく責められたらしい。
男ばかりの4人兄弟の末に生まれた女の子だった。
高校に行かせてもらえなかった父は、ひとりで島をあとにして、経理の専門学校に通いながら仕事を始める。
結婚した父は男の子が欲しかったようだが、自分の子どもは女ばかり。
お前が男だったらなぁと、事あるごとに言われていた。髪は男の子のように刈り上げられ、父とキャッチボールをした。
幼い頃はわたしは女の子に生まれてきたのは間違いだったんじゃないかと思っていた時期もあった。
3人目も女だったので末の妹に父が亡くした妹の名前をつけたそうだ。
小さい頃から女3人、相当なスパルタで泳ぎを仕込まれた。
泳ぎきらんば死ぬとぞ!
船の沈んでも泳ぎきれれば死なんで済む。
ちゃんと泳がるっごとならんば。
その当時は祖父母の住む離島まで船で3時間かかっていた。
祖父母の家は海のすぐそばで、ビーチではない深い海で海の中に放り投げられていた。
妹も最初は泣き喚いていたが、慣れて泳げるようになるとそれは楽しい遊びだった。
大人になっても波止場に行くと飛び込みたくなる衝動に駆られる事があった。
あの、海の感触が懐かしくて。
わたしが泳げるようになったのは、海で溺れかけてからだ。
海水浴に行って、浮き輪をして浮かんでいた。
浮き輪が大きかったのでスルリと下に沈んでしまった。
瞬間、目が開いていて海の中がキラキラきらめいて見えた。
わー、綺麗だなーと思っているとプカーっと浮き上がってきたので、あわてて浮き輪につかまった。危なかったー!
それから不思議と海が怖くなくなった。
小学4年生の夏休みに、ひとりで電車に乗って、首から渡し船に乗って行く為の木札をぶら下げて、離れ小島でやってる水泳教室に通っていた。
海で潜水や立ち泳ぎや遠泳を習った。
日焼けして真っ黒だったわたしは水を得た魚のように海が大好きだった。
今でも海が大好きだ。